第797回 生医研セミナー(多階層生体防御システム研究拠点)

令和元年度の共同利用・共同研究課題に採択された東京都医学総合研究所・糖尿病性神経障害プロジェクトの八子 英司 博士にセミナーをお願いしました。今回のセミナーでは、糖代謝障害と細胞死誘導機序について最近の成果を発表いただきます。

演題 / Title

高グルコース・外因性ピルビン酸欠乏環境下における糖代謝障害と細胞死誘導機序の解明

演者 / Speaker

八子 英司 博士
東京都医学総合研究所 糖尿病性神経障害プロジェクト

日時 / Date

2019年9月24日(火) Sep. 24 (Tue), 2019
16:00~17:30

場所 / Venue

病院キャンパス 生体防御医学研究所 本館1階 会議室
以下の地図の29番です。
(http://www.kyushu-u.ac.jp/f/35767/2019hospital_2.pdf)

Seminar Room, Main Building 1F, Medical Institute of Bioregulation, Hospital Campus
No.29 on the following linked map.
(http://www.kyushu-u.ac.jp/f/35768/2019hospital-en_2.pdf)

要 旨 / Abstract

 ピルビン酸は好気的・嫌気的環境下におけるエネルギー産生に重要である。その機能は多岐に渡り、内因性ピルビン酸は細胞死の抑制など、外因性ピルビン酸は抗酸化作用を有している。糖尿病モデル動物にピルビン酸を投与すると、その抗酸化・抗炎症効果により糖尿病性網膜症や腎症を改善することが報告されている(Hegde and Varma 2005; Ju et al 2012) 。また、糖尿病モデル動物の末梢神経組織では非糖尿病動物に比べ、外因性ピルビン酸の代謝がTCA回路で亢進しているが(Sas et al 2016) 、TCA回路代謝産物量は減少していることが報告されている(Hinder et al 2013; Sas et al 2016) 。しかし、糖尿病性神経障害に対するピルビン酸の有用性は明らかになっていない。そのため、高グルコース環境下における外因性ピルビン酸の機能解明を目的に本研究を実施した。
初代培養ラット後根神経節ニューロンやマウスシュワン細胞株IMS32を高グルコース (>10 mM)・外因性ピルビン酸欠乏環境下に暴露すると、24時間以内に顕著な細胞死が誘導された。さらに、ヒト大動脈血管内皮細胞HAECやマウスメサンギウム細胞株MES13などでも、同様に、細胞死の誘導が観察された。IMS32細胞を用いたメタボローム、フラックスアナライザーなどの代謝解析により、高グルコース・外因性ピルビン酸欠乏環境下ではTCA回路の中間代謝産物が減少していること、ミトコンドリア呼吸の低下によるATP産生量の減少が生じること、またこれらの低下は2-オキソグルタル酸などのTCA回路代謝産物の投与により改善されること、などが明らかとなった。そして、同環境下において、糖尿病性神経障害の成因の1つであるポリオール代謝などの解糖系側副路が亢進していること、Poly (ADP-ribose) polymerase (PARP)の活性化を介した解糖系酵素Glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (GAPDH)活性の低下による解糖系速度の減少が引き起こされていることが示唆された。
 これらの結果から、外因性ピルビン酸は高グルコース環境下において、解糖系-TCA回路の代謝を制御し、ATP産生を維持していることが考えられた。そして、糖尿病性神経障害に対し、ピルビン酸が糖代謝の改善を通じ、有益である可能性が示唆された。

参考論文 / References

  1. Hegde K and Varma S (2005) Mol Cell Biochem 269:115–120.
  2. Hinder L et al. (2013) J Endocrinol, 216:1–11.
  3. Ju K et al. (2012) AJP: Renal Physiology, 302:F606–F613.
  4. Sas KM et al. (2016) JCI Insight, 1:e86976.

連絡先 / Contact

生体防御医学研究所 脳機能制御学分野
中別府 雄作
092(642)6800