第707回 生医研セミナー(多階層生体防御システム研究拠点)

下記の通り、坂野 仁(福井大学医学部)特任教授のセミナーを二部構成で行なうことになりました。

坂野先生は、これまで、免疫学、神経科学の分野で世界的な研究成果を数多く発信されてきています。特に最近10年間では、高等動物の嗅覚系の研究によって「脳における神経配線がどの様に形成され、情動・行動の判断が下されるのか」という神経科学研究の中心課題の解明に多く貢献され、国際的にも高く評価されています。

第2部のみの参加も歓迎します。多くの方々のご来聴をお待ちしております。

日時

2016年 2月 15日(月)14:30~17:15

場所

馬出地区 総合研究棟1階 102講義室
以下の地図の1番です。
(http://www.kyushu-u.ac.jp/access/map/hospital/hospital.html)

演者

坂野 仁 先生
福井大学 医学部高次脳機能 特命教授

【第1部】14:30~16:00

演  題嗅覚研究から情動や行動のdecision makingを考える
要  旨多様な嗅覚情報は、嗅上皮で受容された匂い分子の結合シグナルを嗅球表面の糸球地図に二次元展開する事によって識別されている。このリガンド結合シグナルの位置情報への変換は、嗅神経の軸索が、発現する嗅覚受容体の種類を基に自らが投射すべき特定の糸球体を探し当てる事によって保障されている。
 我々は最近、Gタンパク質共役受容体(GPCR)である嗅覚受容体の分子ゆらぎが、リガンドがない状態で生じるGPCRの基礎活性として、cAMPの量を介して軸索誘導分子の転写量を決めている事を見出した。これは長年の懸案であった「嗅覚受容体によって指令的に制御される嗅神経細胞の軸索投射の分子基盤」を明らかにしたのみならず、これ迄ノイズとしてその生理的機能が積極的に考慮されて来なかった「アゴニストに依存しないGPCRの基礎活性」に、発生過程で軸索投射の制御という積極的な役割の有る事を示したという意味でも重要である。
 本講演では、嗅球の糸球マップにおいて二次元展開された匂い情報が、脳の中枢においてどの様にその質感を判断されるのか、情動や行動のdecision making、について最近のデータを基に考察する。
参考文献
  1. Nishizumi, H. & Sakano, H.:Dev. Neurobiol. 75, 594 (2015). 総説
  2. Nakashima, A. et al.:Cell 154, 1314 (2013). GPCRの基礎活性
  3. Takeuchi, H. et al.:Cell 141, 1056 (2010). 背腹軸に沿った投射
  4. Imai, T. et al.:Science 325, 585 (2009). 前後軸に沿った投射
  5. Serizawa, S. et al.:Cell 127, 1057 (2006). 嗅覚神経地図の精緻化
  6. Kobayakawa, K. et al.:Nature 450, 503 (2007). 本能行動と匂い地図

【第2部】16:15~17:15

演  題国内外のトップラボサイエンス:独創性とチャレンジ、若い人達へのメッセージ
概  要坂野先生は京大で学位取得後に渡米され、カリフォルニア大学サンディエゴ校、スイスバーゼル免疫学研究所、カリフォルニア大学バークレー校、東京大学大学院理学系研究科、福井大学医学部と世界のトップラボ-サイエンスにおいて常に世界をリードされていますが、とりわけ利根川博士(1987年ノーベル医学・生理学賞受賞)との免疫系の研究から嗅覚神経系への研究分野の大転換を見事に成功させられました。この機会に、ご研究の独創性とチャレンジ、さらには若い人達へのメッセージなどもお聞きしたいと思います。

連絡先

生体防御医学研究所 
オルガネラホメオスタシス研究室
藤木 幸夫 092-642-4232 (秘書 6341)