教授からのメッセージ

医学は日進月歩で進んでいるものの、効果的な治療が存在しない病態や原因不明の疾患は未だ数多く残されています。また、日常的に当たり前のように病院で行われている治療の中には、昔から行われているからという理由だけの根拠の乏しいものも存在します。

当研究室では、各人が培ってきた臨床経験や人生経験、科学的観察の中で、なぜだろう、不思議だなと思う素朴なテーマを浮き彫りにし、主にマウスを用いた新しい疾患モデルの確立や疾患の原因究明ならびに新規治療法開発を目的とした基礎実験に落とし込むことで、未来の医学や実際の臨床に多少なりとも繋がる研究を目指しています。特に、基礎研究者にとっても臨床医にとっても、さらには一般の人が見ても面白いと思える研究こそが価値のある医学研究と考えていますので、バックグラウンドの異なる研究者の融合を重視しています。

対象とする疾患は脳脊髄などの中枢神経、末梢神経、筋肉・靭帯・骨などの運動器等が中心ですが、肝臓などの固形臓器や皮膚疾患など、分野にこだわらず各自が興味を持てる疾患に焦点を当てて、それぞれが独自のアイデアで研究を進めています。具体的には、なぜ傷ついた中枢神経は再生しないのか、どのようにして大脳は形作られるのか、肝臓の再生能は何によって規定されるのか、リンパ管は病気に関係しているのか、組織を修復するはずの炎症機構がなぜ病気を引き起こすのか、などを研究しています。

研究手法は日々進化しており、様々な新しい技術によってこれまで解析が困難であった実験ができるようになっておりますが、研究の原点は対象をじっくりと観察し、興味や疑問を持つことから始まる原則は古くから変わっていません。研究成果を挙げることも重要ですが、それ以上に個々の研究者が自分の知的好奇心を満たしつつ成長することが、最終的に社会や医療への貢献に繋がると考えています。

メンバー

教授   岡田 誠司

 Professor

准教授 今野 大治郎

 Associate professor

助教  田中 正剛

 Assistant Professor

大学院生

 D4 吉崎 真吾

 D3 畑  和宏

 D3 田丸 哲弥

 D2 井浦 広貴

 D1 春田 陽平


研究室 スタッフ

 事務補佐員  永田 千鶴

 技術補佐員  河野 仁美

研究内容について

Q :なぜ、傷ついた脊髄はなぜ再生しないのでしょうか?


一度損傷を受けた哺乳類の中枢神経は再生しないと信じられてきましたが、ここ十数年の中枢神経系の幹細胞生物学の急速な発展により、神経幹細胞と呼ばれる細胞が成体にも存在することが明らかとなりました。さらにこれらを分離培養・増殖させる技術やiPS細胞の発見もあり、細胞移植により破綻した中枢神経系を再生し機能修復を目指した再生医学の研究が世界中で広く行われております。当研究グループに於きましても、脊髄損傷という整形外科疾患の中でも特に重篤な外傷に焦点を当て治療研究を行っております。研究内容は幹細胞移植治療だけでなく、脊髄損傷の病態形成や修復に関わるシグナル分子・遺伝子の探索を行っており、多方面からの新しい治療法の開発研究を精力的に進めております。特に、セルソータを用いた生着細胞の選択的回収法や、浸潤炎症細胞の定量解析法などを開発し、多くの成果を上げています (Saiwai et al., AJP 2010, Saiwai et al., JCP 2011, Saiwai et al., J Neurochem 2013, Kumamaru et al., JNI 2012, Kumamaru et al., JCP 2012, Kumamaru et al., Stem Cells 2013, Kumamaru et al., Nat Commun 2012, Kubota et al., Spine 2012, Kubota et al., Spine 2013, Kobayakawa et al., Science Transl Med 2014, Yokota et al., Stem Cell Repo 2015, Yokota et al., Sci Repo 2016, Yokota et al., AJP 2017, Yokota et al., Mol Brain, 2018 )。  
Placeholder image
しかし、動物実験においても脊髄損傷に対するこれらの細胞移植の効果はまだまだ微々たるものですし、なぜ機能が改善するかというメカニズムも現時点では殆ど明らかにされておりません。安全性と確実な治療効果が得られる新たな治療法の開発に向けては解決すべき課題が山積みであり、私どももその解明の一端を担えるべく研究に励んでおります。
最近の大きな成果としては、これまで哺乳類の中枢神経系で再生がおこらない主因と言われる『グリア瘢痕』が形成されるメカニズムを明らかにし、せき損後のグリア瘢痕を抑制することが新たなせき損の治療法に繫がることを証明しました(Hara et al., Nat Med 2017)。 
一方で、臨床の脊髄損傷に関しても総合せき損センターとの強力な連携により、せき損患者さんの臨床データに基づいた研究を進めています(Okada et al., Spine 2009, Okada et al., Neurosurgery 2011, Kubota et al., Spine 2012, Kobayakawa et al., Science Transl Med 2014, Okada et al., Spine J 2014)。損傷後の一過性高血糖が麻痺の予後に与えることや、神経圧迫と麻痺の予後の関連について明らかにしており、少しでも麻痺の予後を改善し患者さんの福音に繋がる治療戦略の確立に向けて努力しております。

Q:神経幹細胞にプログラムされた中枢神経系構築の分子メカニズムは何でしょうか?


中枢神経系を構成するニューロンが生み出す奇怪にも見えるほど複雑な神経ネットワークは、哺乳類高次脳機能を担う最も重要な構造的基盤です。その複雑さは現代の最先端技術で作り出されたどんなに高度なコンピューターでさえ足元にも及びません。しかしそれがどんなに複雑な構造であっても、その構築プログラムの大枠は胎生期の神経幹細胞においてすでに決定されています。当分野では大脳神経幹細胞をモデルとし、神経幹細胞におけるアイデンティティーの獲得メカニズム、さらには獲得したアイデンティティーに従って非対称細胞分裂を繰り返しながら多様なニューロンを生み出すメカニズムを解析し、中枢神経系構築の基本原理の解明を目指しています。我々はこれまでに最先端の分子細胞生物学的手法および組織学的手法を駆使することにより、神経幹細胞の未分化・分化制御における細胞極性の役割や、神経幹細胞のアイデンティーを制御する転写ネットワークの同定に成功しています(Konno et al., Nat Cell Biol 2008, Shioi et al., Cereb Cortex 2009, Shitamukai, et al., J Neurosci 2012, Saadaoui, et al., EMBO Rep 2017)。  
Placeholder image

Q:中枢神経系の発生メカニズムと病態・再生現象との関連性を探る


前述の通り、一度損傷された成体哺乳類の中枢神経系組織は決して再生しないと長い間考えられてきましたが、特定の条件下では損傷部位の修復および再生が認められることが明らになってきました。非常に興味深いことに、再生現象が観察される組織における遺伝子の発現変動を調べてみると、多くの発生関連遺伝子の発現が活性化することが知られています。つまり再生という現象は、発生現象の繰り返し、もしくはその一部を利用していることが理解できます。当分野では、哺乳類大脳および脊髄をモデルとし、中枢神経系の発生を担う分子メカニズムの解明という視点から、病態の解明とその治療法、さらには再生誘導法の確立を目指します。

Q. リンパ管にはどんな働きがあるのでしょうか?


臓器や組織は様々な細胞から構成されていますが、個々の細胞は毛細血管から漏出した組織液によって栄養されており、リンパ管はこの組織液を末梢から集めて全身の循環に戻す経路として機能しています。また、細菌などの病原体が体内に侵入した際には、組織常在マクロファージなどの免疫細胞が病原体を貪食し、リンパ管を通ってリンパ節に移動し、リンパ球に抗原提示することにより獲得免疫が作動します。従来、リンパ管はこのように組織液や免疫細胞の通路としての受動的な機能しかないと考えられていました。しかしながら、2000年代に入りリンパ管内皮細胞のマーカーが発見され、リンパ管新生のメカニズムが分子レベルで解明されて以降、リンパ管に関する研究が精力的になされるようになり、徐々にリンパ管が能動的な働きを持つことが明らかとなってきました。その例としてはリンパ管内皮細胞が様々なケモカインを分泌することにより、免疫細胞のリンパ管への遊走を促していることや、HDLコレステロールの取り込みを行うことで末梢組織の脂質代謝に関与していることが挙げられます (Tanaka et al., Curr Opin Immunol. 2018)。今度、リンパ管の知られていなかった働きが徐々に明らかになっていくと予想されます。  

Q. リンパ管は病気に関係している?


様々な疾患・病態においてリンパ管新生が起きることが知られていますが、リンパ管新生の病態における意義や、リンパ管新生抑制が治療効果をもたらすのかについてはまだ良く分かっていません。固形臓器移植の動物モデルで例を挙げると、角膜移植ではリンパ管新生は慢性拒絶反応のリスクファクターであり、リンパ管新生を抑制することによりグラフトの生着率が改善するのに対し、肝臓移植においてはリンパ管新生が起きると長期予後が良いことが分かっています。また、多くの癌組織はVEGF-CやVEGF-Dなどのリンパ管新生を促進するサイトカインを分泌することが知られており、VEGF-CやVEGF-Dの発現はリンパ節転移のリスクファクターであり、生命予後を悪化させることが知られています。VEGF-Cの中和抗体によりリンパ管新生が抑制され、リンパ節転移が抑制されることが報告されていますが、その一方で、リンパ節での癌細胞に対する獲得免疫の形成を抑制するため、免疫チェックポイント阻害剤であるPD-L1抗体の効果を減弱するという報告もあり、単純にリンパ管新生を抑制すれば良いというものでもないようです。リンパ管新生に対する介入が実臨床における新規治療になるまでには、リンパ管機能についての更なる理解が必要であると考えられます。  

Q. 肝臓でリンパ管を研究する意義は何でしょうか?


一般的な組織においては毛細血管から漏出した組織液は任意の方向に流れた後に毛細リンパ管に流入します。しかし、肝臓においては実質細胞である肝細胞が索状に配列しているため、組織液は肝細胞索と類洞内皮細胞の間のスペース (ディッセ腔) に存在し、類洞血流とは逆方向に流れて門脈域に存在する毛細リンパ管に流入します (下図, Tanaka et al., Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2016より抜粋)。このように肝臓においては組織液とリンパ管の局在が解剖学的に明瞭であるという特徴があり、リンパ管の研究にとても適した組織だと考えています。実は肝臓は全身で最も多くのリンパ液が産生される臓器であり、肝硬変の患者さんでは肝臓でのリンパ液産生量が最大30倍まで増加しリンパ管新生も起きることが知られていますが、そのメカニズムについてはあまり良く分かっていません。当研究室では肝硬変を含めて様々な肝疾患におけるリンパ管の機能について解析を進めていますが、その知見は肝臓以外の一般組織におけるリンパ管の機能を解明することに繋がると考えています。  
Placeholder image

当研究室へのアクセス

空路 福岡空港→(地下鉄空港線)→「中洲川端駅」にて貝塚方面へ乗換→(地下鉄箱崎線)→「馬出九大病院前駅」
JR 「JR博多駅」→(地下鉄空港線)→「中洲川端駅」にて貝塚方面へ乗換→(地下鉄箱崎線)→「馬出九大病院前駅」
「JR博多駅」→「JR吉塚駅」で下車し徒歩15分
西鉄 「西鉄福岡駅」 →(地下鉄)→「馬出九大病院前駅」で下車
高速バス 天神バスセンター下車→(地下鉄)→「馬出九大病院前駅」で下車
西鉄バス 系統 1, 7, 9, 12, 13, 51, 52, 54, 59, 61, 140, 161
「九大病院」又は「警察本部前・九大病院入り口」で下車、徒歩5分




キャンパス内マップはこちら

住所
 〒812-8582 福岡県福岡市東区馬出3-1-1 生体防御医学研究所3号館2階
 九州大学 生体防御医学研究所
 個体機能制御学部門 病態生理学分野

Get In Touch.

Error boy
Your message was sent, thank you!